ガラス玉とプリズム越しのセカイ

趣味の天体観望・写真について語ったり、その他気になったこと・面白いと思ったことについて言及します。

超軽量高剛性経緯台・スコープテックゼロの購入

なぜこれを買ったのか

小海星フェスで

去年の晩秋に、『北八ヶ岳・小海 星と自然のフェスタ』に行った時のことだ。

初心者目線でもマニア目線でも安くて優れた製品を展開するスコープテックのブースで、見慣れたポルタ経緯台よりも小さな片持ちフォーク式のフリーストップ経緯台が展示されていた。まだ試作段階だというが、応力計算を繰り返して追求した、軽量さと剛性の高さを両立しているという。7kgにもなる鏡筒を載せてもびくともしない様子には驚いた。独自の機構により折りたたむことができるとか、将来的な拡張性のために用途未定のネジ穴があけられているとか、そういう合体変形ロボ的な面白さもあった。

長雨に耐え兼ね

時は流れ2020年8月。長い長い梅雨には辟易したもので、少しでも晴れそうな日があっても、平日だったり満月だったりで、なかなか星見をできない日が続いた。

就職により急速に経済的余裕が出てきたこともあり、物欲が増すのは仕方なかった。折角なら、新品購入で経済を回したかった

手軽な眼視観望のために

遠征ありきでは、一年に何度星を見る機会があるだろうか。仕事に影響が出ないように、体に負担をかけ過ぎないように。そうした制約の下で、光に包まれた都会から車を借りて片道2時間走るのは、あまりにもコスパが悪い。束の間のチャンスを見つけてはすぐに自宅前で機材を展開し、小一時間楽しんだらすぐに撤収するような観望スタイルを求めつつあった。なるべく軽く、出してすぐ使えるようなシステムが最適だ。

同時に、最近は天体写真よりも眼視に重きを置こうという考えがあった。撮影をするには赤道儀を組み立てて極軸合わせをして、バランスをとって……といったように、セッティングだけで時間がかかってしまう。これは手軽とは言えない。しかし前述したような自宅前観望では、簡単に導入出来て小口径でも楽しめる天体……光害の影響を受けにくい、恒星や惑星が主な対象になる。特に明るい惑星はファインダーなしでも導入できるし、手軽さは十分。そこで、高倍率の惑星観望にも耐え、かつ軽量な経緯台が欲しいという結論に至った。

ポルタ経緯台への不満

普通の経緯台では重い鏡筒を載せた際にはバランスを取るためにウェイトを付ける必要があり、結局軽量さ・手軽さは失われてしまう。となればフォーク式がよいということになるが、実は自分は昔親に買ってもらったポルタ経緯台(初代)を持っている。スコープテックゼロは、役回りや機能としては完全にかぶってしまう。

だがポルタ経緯台には何点か不満があり、それを解消してくれそうだったから、スコープテックゼロを買ったのである。実際にその不満とやらが解消されたどうかは次項で述べる。

レビュー

スコープテックゼロの使い方やセールスポイントについては、公式ページで非常に詳しく解説されているため、ここでは割愛する。そこで、特に良いと思ったこと、おや?と思ったことだけ紹介する。

スコープテック ゼロ | スコープタウン

外観・特徴

まず何といっても素晴らしいのは、折りたたんだ時のコンパクトさ。組み立てた状態ではL字状になるアームが、工具レスで分解・折りたたむことができる。商品が届いたときは、こんな風に折りたたまれていた。

たたんだ状態

たたんだ状態では25×12cmぐらい。えっ?と思うぐらいコンパクトだ

これはアームの固定に『菊座』と呼ばれる構造を採用しているが故の芸当だ。手締めでどれだけ固定されるのか?と疑問に思うかもしれないが、特別強い力を入れる必要もなく十分固く固定できる。ノブの形状も握りやすい配慮がされているし、手にして組み立て始めた時点で購入して良かったと確信した。

菊座構造によるアーム固定

菊座構造によるアーム固定

付属品は読本、オプションで微動ハンドルを購入した。この読本には使い方や注意点が事細かに書かれているだけでなく、各部に空けられた用途未定のネジ穴の寸法が書いてあったりと、自分でカスタマイズすることも想定していそうだった。

取扱説明書ではなく『取扱読本』と名付けられているのも納得の充実ぶりで 、開発者がこの経緯台に注いだ労力と情熱がうかがえる。

取扱読本

取扱読本

片持ちフォークマウントの『THE FINAL ANSWER』

片持ちフォークマウントの『THE FINAL ANSWER』

微動ハンドルは短いものを購入したが、これもなかなか優秀な出来である。パイプ部はしっかりとした金属製だし、固定ネジにガタはない。1円玉をマイナスドライバーのようにして締められるのも、地味だが嬉しい配慮だった。

微動ハンドルは1円玉で固定できる

微動ハンドルは1円玉で固定できる

ポルタ経緯台の微動ハンドルは差し込むだけの方式で、簡単ではあるが快適な使用感とは言えなかった。その点スコープテックゼロの微動ハンドルは狙い通りというか、予想以上の感触だった。

アリミゾはネジ1本で固定する方式で、少々安定性に不安はあるものの、ネジの遊びはなくノブの形状も締めやすい形だから大丈夫だろう。ここはコンパクトさを重視しての選択なのだと評価したい。なおアリミゾ自体の固定は一般的な35mm間隔のM6・M8ネジなので、他社のものに交換することもできる。

アリミゾ

アリミゾ

自分は古いジッツオ4型4段三脚を持っているので、3/8インチネジを利用してそれに取り付けようと思い、三脚アダプターは購入しなかった。三脚の雄ネジに架台をねじ込むようにして取り付けるのだが、これはフリーストップ経緯台なので取り外しの時に困る……なんてことはない。横のところに穴が開いていて、ここにドライバーやレンチを差し込んで、それを手掛かりに架台全体を回せば簡単に取り外すことができる。

サービスホールと言うらしい

サービスホールと言うらしい

一方自分が持っているポルタ経緯台は初代なので、専用三脚架台に載せることしかできない。三脚を含めて考えれば、コスパに優れた良い商品ではあるのだが……さらにコンパクトに、さらに手軽に、と考えると発展性が見込めなかった。

ポルタ経緯台と並べて比べてみれば一目瞭然、ジッツオ三脚を使っている効果もあり、積載能力を考えると驚異的にコンパクトだと言っていいだろう。ただカメラ三脚は三角板を取り付けられないから、望遠鏡用三脚に比べると振動には弱い。しかし片手でひょいと持ち上げられるほどの軽さ小ささは、確実に望遠鏡を出すことへのハードルを下げてくれそうだ。

ポルタ経緯台との比較

ポルタ経緯台との比較

足を伸ばしてみる

足を伸ばしてみる

使ってみると

しっかりとした安定感

鏡筒外径180mm、重量4.5kgのセレストロンC6を載せてみる。架台の耐荷重は7kg、三脚の耐荷重は12kgだから余裕があって、中々悪くない安定感だ。

C6を載せてみる

C6を載せてみる

ただ載せられる鏡筒の太さはこのあたりが限界かなと思う。アームの角度を調整すれば水平に向けることができるが、これ以上太い鏡筒となるとそれもできなくなってしまうからだ。恐らく市販のほとんどの15cm級の鏡筒は載るが、それ以上は無理だ。多分アームの長さの設計に際して、この口径を上限としていたのだろう。

水平に向けるときは

水平に向けるときはアームの角度を変える

フリーストップの思い通り具合

フリーストップ式架台ということで、最も重視すべきは粗動時の扱いやすさだ。使ってみるとまず驚くのが、フリクション調整ノブを締めても緩めても、フリーストップに不自由しない程度の固さに収まることだ。必要以上にゆるんで鏡筒が動いてしまうこともないし、クランプのように固定されてしまうこともない。

それでいて、接眼部のパーツを交換して多少バランスが崩れても、ほとんどの場合でバランスを取りなおす必要なくしっかり止まる。ただ、上下微動ハンドルを回すときは、少しテンションを強くした方がいいことが分かった。そうでないと、微動をキャンセルするようにフリーストップによる粗動が動いてしまい、思い通りに操作できない。

使ってみた感触では、100倍程度までなら粗動で余裕、三脚の剛性や鏡筒の重さ大きさによって変わるものの、それ以上、例えば300倍では微動を使った方が快適な印象を受けた。これは個人の感じ方にもよるだろうし、その境目を考えることにあまり意味はないだろうけど。

と、まあここまでならポルタ経緯台でもできるような話ではある。では、スコープテックゼロの何がすごいかと言えば、フリーストップの感触が非常によく練られていて、ほとんどストレスがないのだ。

具体的に言えば、『ほんの少しだけ粗動で動かす』ということが容易なのだ。鏡筒の接眼部を持って少し力を加えるだけで動き出し、止めたいときにピタッと止めることができる。静止摩擦と動摩擦の係数の差が小さい、と言えば分かるだろうか。

ポルタ経緯台では粗動によるかすかな操作が少しやりづらく、粗動主体で使う倍率と微動が必要になる倍率との境目が、スコープテックゼロよりも低倍率側にあったということだ。

システム全体としてのコンパクトさ

フォーク式経緯台のメリットは、バランスウェイトが不要なことで、全体として軽量に纏められることだ。

スコープテックゼロは、ここに『折りたためる』という属性を付加することで、さらにコンパクトさを得ている。ポルタ経緯台のような『折りたためない』片持ちフォーク式経緯台は、その独特な形状によりコンパクトではなかった。(最新のモバイルポルタは折りたためるが、剛性が犠牲になっていそうな見た目をしている。触ってみないことには分からないが)

さらに、軽量ながら高剛性であるように追求された構造により、本格的な観望にも耐える耐荷重が実現されている。先に述べたような15cm級の鏡筒でさえも、三脚+架台+鏡筒すべて合わせても10kg前後に収まってしまう。玄関で組み立てておいたままにして、使おうと思ったときにすぐ外に出す、ということが可能だ。

自分の場合は小さく縮められるカメラ用三脚を使うことで、例えばバイクのリアボックスに積み込んで移動することや、30L程度のリュックに詰め込んで電車に乗る、と言ったことも可能になった。

BORG76EDと一式をまとめる

BORG76EDと一式をまとめる

リュックの中にすっぽり収まる

リュックの中にすっぽり収まる

余談だが、鏡筒や架台を裸の状態でリュックに入れるのはやめておいた方がいい。互いにぶつかり合って傷がついてしまうからだ。私はあまり機材の見た目は気にしないし、気にしない方が精神衛生上よいと思っているから別に構わないが、あまり気持ちの良いものではない。

どう使っていくか?

平日の夜で時間がなくても、空を見て晴れていたら、家の前にさっと望遠鏡を立てて惑星を見る、といった使い方を想定している。

実際にそんな使い方をしてみた感想としては、高倍率での惑星観望には少し三脚の剛性が足りないと思った。まあ、立ったままで観望するために三脚の足を最大まで伸ばした状態での話だから当たり前なのだが。三角板を付けられるような改造を施して、三脚の剛性アップを図っていきたいところだ。

とはいえ、展開に際して三角板を取り付ける、というワンアクションが加わることで軽快さが損なわれるのも事実。ジッツオ4型4段三脚とは別に、天体望遠鏡用のがっしりした三脚を用意して使い分ける方がいいかもしれない。

今後の製品展開を予測してみる

スコープテックゼロには、数多くの用途未定のネジ穴があけられている。これは今後の製品展開のためだったり、ユーザー自身がカスタマイズを施すためだったりするようなのだが、アーム中程と水平軸のフリクション調整ノブの下の部分に空けられたM8ネジ穴の用途について、特許情報から読み取ることができたのでここに記す。

このM8ネジ穴の用途は?

このM8ネジ穴の用途は?

そして当該特許はこれ。

https://www.j-platpat.inpit.go.jp/c1800/PU/JP-6667804/E3EBE953EE99444C4D54FFCA65A80F1DE1850BBD4BDBAE099B0AB9E079D6B8D4/15/ja

記事を読むと、スコープテックゼロは経緯台として使うだけではなく、[90-緯度]の分だけ水平軸を傾けて赤道儀として使うことも想定されていることが分かる。というよりも、赤道儀として使うことが、この架台の到達点のように読み取れる。

経緯台として使う時は、鏡筒の前後バランス、すなわち高度軸周りのモーメントの合計をゼロにするだけでいい。水平軸周りのバランスが取れていなくても、勝手に回り出すようなことはないからだ。

しかし赤道儀として使う時は、経緯台における水平軸つまり赤経軸周りのバランスもとらなくてはならない。記事によれば、この二つのM8ネジ穴はそのためのウェイトシャフトを取り付ける目的のようだ。鏡筒を取り付けたときに、鏡筒側が重いようなら、アーム側の穴にウェイトを取り付ける。(このM8取り付けのウェイトシャフトは、調べた限りではスカイメモS用の物が流用できそうだ)

ただしこの時、アームの角度は90°にセットする必要がある。そうでないと、この二つのネジ穴に取り付けたウェイトだけではバランスを取ることができないからだ。

ということは、赤道儀モードで使える鏡筒の太さは、アームを90°にしたときの使用感に依存する赤道儀モードでは、アームの角度を自由に変えられるという特徴は意味をなさないことになる。(もう一つウェイトを取り付けるネジ穴を空けてしまうという方法もあるが)

これらを総合すると、今後の製品展開としては、スコープテックゼロを赤道儀として使うためのパーツ群が発売されると予測できる。ウェイトおよびウェイトシャフト、水平軸を傾けるための微動雲台がそのうち発売されるのではないだろうか。さらに赤経軸恒星時駆動用モーターもあるかもしれない。まあ、単なる予測なのでそうはならないかもしれないけど。

 

手持ちのビデオ雲台を使って、赤道儀モードにしたときの様子を再現してみた。

C6鏡筒の向けられる範囲は結構狭くて、赤緯+40°~-30°ぐらい。これはちょっと不自由だ。

C6鏡筒を赤道儀モードで①

C6鏡筒を赤道儀モードで①

C6鏡筒を赤道儀モードで②

C6鏡筒を赤道儀モードで②

一方、鏡筒径80mmのBORG76EDでは赤緯+80°~-50°ぐらい。天の南極側は、ビデオ雲台のハンドルに干渉しているだけなので、もう少し低くまで向けられる。こちらはある程度実用になりそうだ。

BORG76EDを赤道儀モードで①

BORG76EDを赤道儀モードで①

BORG76EDを赤道儀モードで②

BORG76EDを赤道儀モードで②